観た映画(2017年1〜3月公開)


『ダーティ・グランパ』
 デ・ニーロ&ザック・エフロンで祖父と孫の心暖まるロードムービーかと思いきや、二人が下ネタの限りを尽くすだけの作品。水着程度の女優陣を差し置き二人が脱ぎまくるとか狂ってる。特にザックが股間に蜂の縫いぐるみだけの姿で披露するシーケンスは強烈だった。下品でブラックなギャグばかりだが字幕のセンスが良いので笑いどころは多い。


ネオン・デーモン
 終盤展開とキアヌ・リーブスの無駄遣いぶりに度肝を抜かれたが、全体にアート過ぎてワケ解らん。いや、ある意味解り易いんだが、このアクの強さが口に合わない。抽象シーンを深読みする気が失せる。だけど80'sエレクトロニックな音楽は好み。


本能寺ホテル
 万城目学が全ボツ脚本のアイデアを勝手に小ネタで消化されたって愚痴ってたのが本作らしい。有名作家との関係を悪くしてまで作った割に杜撰な映画だった。プロットを殆ど活かせず、登場人物達が到る結論に全く説得力が無い。妙な演出の連打にも戸惑った。


沈黙 -サイレンス-
 遠藤周作の小説をスコセッシ監督が撮った時代劇。日本人にも違和感ない出来で驚く。切支丹弾圧ネタなので過激な拷問の連発にぐったりするし殉教する程の厚い信仰も本質的には理解不能だけど、禁教の理由とか基督教の変容とか弾圧側の指摘が良い勉強になった。ただ、キャスト的に「ジェダイは如何にしてダークサイドへ」な話の気がして困る。


ザ・コンサルタント
 予想を裏切る風変わりなアクション映画だったが独特の味わいがある。シリーズ化して欲しい作品。けれど、「謎のスーパー会計士は高機能自閉症の殺人マシーン」って設定だけでもややこしいのに、不正会計の真相と黒幕捜し・会計士の過去と人間関係・彼を追う捜査官のドラマが複雑に絡むので超疲れた。特に会計関係のやり取りが難しい。


新宿スワンⅡ』
 ヤクザの類なのに自覚が無い風俗スカウト達の抗争劇。とにかく脚本が酷い。敵ボスとの因縁、前作の暗殺の真相、謎のキャバ嬢コンテスト、そして本筋の横浜侵攻における逆転の布石。どれにも主人公は殆ど関与してない。売りである面倒見の良さが発揮されるべきヒロインの借金問題も未解決だし・・・。けどアクションだけは良かった。


ドクター・ストレンジ
 カンバーバッチが主役なので観たが予感通り好みに合わなかった。『インセプション』的な映像表現は面白いけど、魔法が万能過ぎてどっちが優位のバトルなのか全然わからない。修行モノにしては、あっさり最強クラスの使い手になるのも興醒め。


『スノーデン』
 ドキュメンタリー映画が既にあるので、スノーデン氏の主張よりも彼の仕事場と私生活にフォーカスした造りになってる。ちゅか、普通にハッカーが主役のサスペンス映画だった。スパイ行為の様々なツールが興味深い。でも、創作部分が多そう。機密奪取シーンとか事実なら同僚に迷惑かけまくりだし、システム開発とかの功績も嘘くさい。


ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
 久々にティム・バートン監督らしさ全開のダーク・ファンタジーをたっぷり味わう。遊園地で触手怪物と骸骨剣士が戦う場面など視覚効果の出来が素晴らしい。ただ、時間ループの基本法則が不明瞭なままなので終盤が無駄に複雑化している。あと、ミス・ペレグリンの見せ場が意外に少ないっちゅうか後半の扱いが酷すぎる。


『マリアンヌ』
 砂嵐の中での濡れ場とか印象に残るシーンはちょこちょこあり雰囲気はとても良いが、話は古典ラブロマンスのオマージュにしても堅実過ぎ。艶っぽいマリオン・コティヤールを堪能って点では存分だが、序盤で見せた手練れの工作員ぶりが後半で消滅するバランスの悪さが残念。ブラピ中佐の暴走も目に余る。あれじゃ疑惑が晴れてもアウトだ。


『サバイバルファミリー』
 「電池を含む全電力を喪失」という状況設定が楽しい。序盤は都会あるあるな危機感の無さで笑わせ、東京脱出後は主人公一家のバカ過ぎてイラっと来る旅路を軸に色々と考えさせる。意識高い系や自給自足な人々の適応力にグッときた。惜しむらくはディテールが雑過ぎる。それに自転車で鹿児島目指すのは無駄に壮大すぎ。あと、長男の恋の件も邪魔。


ラ・ラ・ランド
 充分に楽しくロマンチックで、切なくドラマチックなミュージカル映画だったが、期待ほどでは無かったのも確か。大人数オープニングからカラフルな4人組やらタップシューズに履き替えるくだりやら序盤で怒濤の盛り上がりを見せた割にダンスシーンが少ない印象。お話的には基本「ダメ人間2人だけの世界」なのでイライラする部分もあるけど、願った夢と叶った夢の狭間を突きつけるラスト20分にグッときた。


『お嬢さん』
 官能性の高さがヤバいし、脚本・演出が凄い。めっちゃ面白かった。第一部は古風で耽美なレズ物サスペンスから入り、第二部で淫靡かつダークな乱歩調の変態度が桁外れに増幅し、第三部では韓流らしい過剰なギャグが冴え渡る。そして韓国キャストの拙い日本語台詞がシュール感を煽る。全篇にわたり完全にどうかしてるのに、最後には多幸感に包まれてる不思議。エンドロールに流れる歌も昭和歌謡ぽくって良かった。


『アシュラ』
 クズ揃いな登場人物が超楽しい血まみれバイオレンス。あまりにハイテンションな韓国ノワールぶりに、この映画が日本の『アウトレイジ』みたいな位置付けなのか、もっとコメディ寄りなのか掴みかねる。顔は松重豊だけど芸風は西村まさ彦っぽい市長さんの極悪ぶりが凄く可笑しい。西島秀俊に激似な主人公の救いようのない小物感もグッド。


『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』
 友情・努力・勝利&恋の部活青春モノとしては極めて堅実で可愛く楽しいが、実話ベースにしては偉業達成へのプロセスがさっぱり解らないし、逆転の秘策も説得力皆無。おデブやメガネっ娘の殻を破る姿にも時間を割いて『ピッチ・パーフェクト』並の個性の融合を示すべきだし、地獄先生の指導による精神面の成長も強調すべきだったと思う。


哭声/コクソン
 國村隼がふんどし一丁で殺戮の限りを尽くす韓流サスペンスかと思いきや、宗教色が強く悪霊とかが絡むオカルトだった。そっち方面が嫌いな身としては祈祷師が出てきた辺りでドン引き。夢や幻覚との境界も曖昧な視点で語られたんじゃ、全然わけがわからない。


SING/シング
 好評の吹替版は無視して字幕版を観た。洋楽好きとしては文句なしの選曲で新旧ポップスを堪能できたし、お話はド定番の群像劇をクライマックスのステージに収斂させてて演出と歌詞の力を見せつけられた。けど、遵法意識が低く自己中な主人公を周りが簡単に許しちゃうのは不快。かけた迷惑に見合う落とし前が欲しかった。


パッセンジャー
 冷凍睡眠から早く目覚め孤独に生涯を終える窮地ってなハードSFなのだが、中盤までの悲壮な人間ドラマから一転のエンタメ路線にげんなり。アンディ・ガルシアの無駄遣いぶりから終盤全ボツ案件と邪推するが、それにしてもオチが安直すぎる。上位権限ゲットで状況打開ってのもがっかりで、もっと知恵で解決して欲しかった。


キングコング:髑髏島の巨神
 冒頭の妙な日本人描写&露骨な中国資本キャストで心配になったが、『地獄の黙示録』風味で怪獣大決戦が超楽しい最初から最後までクライマックスな映画だった。人間パートはありきたりだが全然飽きない。コングは開始30分で早々とヒューイ編隊を屠り、その後は大量の怪獣と暴走軍人を相手に次々とバトル。最終決戦は「日本よ、これが怪獣プロレスだ!」ってなアピールがビンビン。ただ、対決予定のギャレゴジとの力量差は心配。


『ムーンライト』
 少年期・青年期・成人期の三部構成で贈る黒人社会の学校カーストで底辺に属した男の物語。良質なドラマだが、過酷な境遇で育つ系にしては悲惨度は軽めで拍子抜け。ゲイ設定はあるものの恋愛映画としてもわりと普通だし。でも、音楽と映像の美しさは印象的。

観た映画(2016年10〜12月公開)

『SCOOP!』
 福山雅治主演という事になってるが実は二階堂ふみの成長物語。最後だけ福山のアイドル映画みたいだけど。全体にテンポが良く、デフォルメされてるんだろうけどパパラッチの内幕も面白く、相棒モノとしてベタで楽しかった。が、終盤の超無理筋展開で評価は急落。あと、二人の進展は賭けの結果と現像室の写真で匂わす程度にして欲しかった。


ジェイソン・ボーン
 美しく纏まったシリーズ三部作には数段劣ると言わざるを得ないが、それなりに楽しいアクション映画だった。唸るようなアイデアには乏しいけど機敏な動きと機転が売りのバトルは健在だし、野心家ヒロインのアリシア・ヴィキャンデルもおでこが可愛い。


スター・トレック BEYOND』
 監督交代で前作までより出来はかなり落ちるけどクライマックスの映像は美しかった。それに中弛みからの唐突展開で強引なオチはTV版の雰囲気を再現してるとも言える。敵の行動原理がさっぱり解らないが、クルー達のキャラ立ちが良く全体的にはまあまあ面白かった。しかし、リブートは毎回とばっちりで襲撃される話だな。


『金メダル男』
 ほぼ同世代なので『フォレスト・ガンプ』的な作りに惹かれて観たけど五十年史の時代感覚は薄目で残念。内村光良のコントや舞台作品は好きで結構観てるのに監督映画を避けてきたのは間違いじゃなかった。ウッチャンらしいハートウォームな話だし笑えるシーンも多いが映画としては稚拙。やっぱりこの人はステージのような制限がある方が冴える。


手紙は憶えている
 この作品を「観なくちゃリスト」に加えた経緯が思い出せない。たぶん予告は観てないし、あらすじも知らないしで、劇中の老人並みに記憶が薄れてて困る。それはさておき、銃持った健忘の爺の一人旅はナチスへの復讐劇とは違う意味のサスペンス感が堪らない。主役が『サウンド・オブ・ミュージック』のエーデルワイスの人ってのも趣。


ぼくのおじさん
 舞台設定を現代と言い張りつつ半世紀前の児童文学のテイストを巧く再現したのに感心した。前半は完璧な北杜夫ワールドだと思う。松田龍平も甥っ子とその家族もかなりのハマリ役でほのぼの感が満載。ただ、原作には無い後半の展開があまりにも『男はつらいよ』過ぎて退屈だった。


ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
 前作『アウトロー』は未見だが特に支障は無い模様。一匹狼の戦士が不良娘と疑似家族になりつつ悪党とバトルってな凡庸な内容を、体当たりアクションと顔芸で保たせてみせたトム・クルーズの年甲斐も無い頑張りに惜しみない拍手を贈る。母親ポジションのコビー・スマルダーズの勇姿も二重丸。強く素っ気なく付かず離れずの感じが良かった。


この世界の片隅に
 反戦を謳わず平凡でほんわかな女の子の日常から戦争の悲惨さを軽妙なタッチで伝える。色々な感情が後を引く作品。キャラ造形大勝利で、幼くふわふわしたヒロインに色っぽさを巧妙に潜ませてて驚く。アニメとしてのクオリティの高さも感動的で、水彩画のような背景でゆったりと丁寧に動かしきちっと止めるという、ピクサーとかではちょっとお目にかかれない演出が素晴らしい。あまり見覚えが無い兵器描写の数々も印象深い。


『聖の青春』
 「東の羽生善治、西の村山聖」の時代を知ってるし原作も十数年前に読んだ。松山ケンイチ東出昌大も見事な役作りだと思う。話もお涙頂戴になってない点は良かった。けど、原作の要である師弟関係を省き創作色の強いライバル物にしたのは疑問。あと、皆が「詰む」と検討する中で「詰まない」と読みきったのが凄いって話を逆にしてどうする。


『メン・イン・キャット』
 猫が好きって理由だけで観た。意識が猫に入ってしまった社長が会社を乗っ取られたり家庭を顧みなかった自分に反省したりする、極めてありがちなコメディだがそこそこ楽しめた。キャストも無駄に豪華だし。ただ、監督が『メン・イン・ブラック』の人だからってこの邦題は無い。


海賊とよばれた男
 元々が大河ドラマ向けの題材なのは解るが、エピソードが面白くなりそうなところで次々とピークを外すのでストレスが溜まる。創業時の若手社員に二十歳以上違う染谷将太吉岡秀隆を並べるなど困惑必至のキャスティングに唖然。


ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
 様々な設定が補完される様が心地よく、メカ類も洗練され勇姿に釘付け。一切活躍しないフォレスト・ウィテカーが邪魔臭い事を除けば超面白かった。特に怒涛のクライマックスは燃えたし泣けたしドニー・イェンベイダー卿が最高だった。けれど冷静に考えると拭えない微妙感。「なんでそんなところにメインスイッチが?」とか「この後、間髪入れずに捕まるレイア!」とかが感動的な場面に付いて回る。


ドント・ブリーズ
 強盗団が全盲の老人宅に侵入したら爺の白兵戦能力がスペシャルだったって設定が旨い。展開も捻りがあって状況は二転三転し最後まで手に汗握る。限定空間を巧く使って逃走劇に仕立てたアイデアも秀逸。だが、この先使う小道具に寄る超親切なカメラワークとか、お約束を徹底踏襲するスタイルとかが気になって恐怖感は薄れてしまった。


『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』
 関係無い子供とか巻き添えになるけど、自爆テロを未然に防ぐにはアジトにミサイルぶち込むしか無いって状況設定が重い。軍人と政治家や英米の手続きの違いが面白かった。現場工作員の決死の努力も胸熱。本作はフィクションだが、対地攻撃無人機の遠隔操作だの鳥や虫のドローンだのは実用化され、本国に居ながら戦争してるってのは事実で驚く。

今年も一年の締めはスター・ウォーズ

 観てきた。批評家大絶賛・ファン大激怒と噂の『最後のジェダイ』だが、私的には別に怒らないけど呆れた。バカすぎるだろ、この脚本。いや、面白かったけどさ。
 とにかく、ファースト・オーダーはうっかりな人ばかりでレジスタンスも無謀で身勝手で行き当たりばったりでいらつく。けど、新キャラのポーグとケアテイカーのグッズは色々買っちゃいそうだ。あざといぞ、ディズニー!

 そんな微妙な気分のまま間もなく新年を迎えるわけですが、来年も宜しくお願いします。

観た映画(2016年7〜9月公開)


インデペンデンス・デイ:リサージェンス
 「バカっぽさ」と「燃え」が前作の肝だったのに、今回は人間側もエイリアン側も致命的なバカに成り下がりビックリするほど燃えないドラマを展開。やりすぎ感たっぷりの超巨大円盤の割に、被害規模やミッション難易度はスケールダウンしてて呆れる。


『シング・ストリート 未来へのうた』
 音楽映画の申し子ジョン・カーニー監督が贈る80年代青春ドラマ。ニューロマンティック全盛の時代に、素人バンドがその影響を受けながら成長していく感じを伝えるオリジナル楽曲群がとにかく粒ぞろい。映像もあの時代の再現度が高いし、不遇な少年少女達の理想と現実のギャップが巧く表現されてて楽しい。無名俳優ばかりだけどバンドメンバーの好感度はマックスで指南役の兄貴も良かった。


『ロスト・バケーション』
 浅瀬の小さな岩礁で展開するソリッドシチュエーションな低予算サメ映画。無意味なヌードやくだらないギャグを排除し、矢継ぎ早にイベントをぶち込んで緊張感を維持し続けるストイックさに脱帽する。オチが強引だったりはするけど。カモメがとてもいい味を出してて素敵。それと、テキサスに海があることを学んだ。


シン・ゴジラ
 ハイテンポで字幕情報だらけの実に庵野監督らしい作品なので特撮マニア層が熱狂するのは当然だが、東日本大震災という共通体験を投影した暴れぶりに、あの時よりはちょっと頼もしい政府関係者が底力を発揮する構成で一般向けのカタルシスを生むとは。あの記憶が薄れてしまえば解けてしまう魔法だけど、本当スゴイものを観た。なお、浮きっぷりが物議を醸す石原さとみだが、個人的にはスピンオフが観たいぐらい好きなキャラだ。


ゴーストバスターズ』(2016版)
 残念ながらギャグがツボに嵌まらず。ワンタンのくだりとか謎過ぎる。『サタデー・ナイト・ライブ』とかに詳しい人は解るのかな?あと、美味しい所が金髪と受付に片寄ってて他のキャラが妙に薄いのが不満。オリジナルを知らなくても楽しめるのはグッド。


君の名は。
 ぶっちゃけ前半が『転校生』で後半は『時かけ』だし、記憶が消えて文字情報でやり取りって設定が途中で破棄され、スマホ時代にゃ不自然なご都合主義もかなり目立つんだけど、郷愁と男女のすれ違いがお家芸新海誠監督らしい青春映画に仕上がってて面白かった。最後は電車内で互いに気づいて走り出す辺りで切ってくれた方が好みだけども。


『後妻業の女』
 連続不審死を題材にした、大竹しのぶ無双のピカレスク・コメディ。旦那殺しまくって罪悪感の欠片もない女って役柄なのに物凄く痛快に魅せちゃうのは流石の一言。抱腹絶倒とはいかないが軽妙でブラックな笑いのバランスも良かった。ただ、笑福亭鶴瓶の挿話が中途半端だったり、物語の着地点がぼやけ気味なのが残念。


『セルフレス/覚醒した記憶』
 デザイナーの石岡瑛子さんが亡くなった為「選ぶ題材が変わった」らしいターセム監督だが、まさか幻想的映像が鳴りを潜めたB級アクションになるとは。まあ、話はド直球だけど美しい画は健在で一安心。問題は、ライアン・レイノルズが『デッドプール』でも似た設定をやってて、そっちのイメージが強過ぎ。中身がベン・キングスレーには見えない。


スーサイド・スクワッド
 マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインは最高だが、それ以外はこれじゃない感が満載。全体にクドいし編集が下手すぎる。予告のノリは素晴らしかったし、垣間見えるジョーカーとハーレイの馴れ初めは単独映画で成り立つ魅力を放ってるのに。


『怒り』
 本当に気持ちを開いているのか掴みきれない3人の男と、人を信じる難しさに揺れる周囲の人々。人物像の説得力が重要な作品であり、超豪華俳優陣は伊達じゃ無く、見応えがあった。特に妻夫木聡×綾野剛による同性愛描写のインパクトは強烈。不満は偏見の助長に近い形で在日米軍を絡めたこと。


ハドソン川の奇跡
 トラブル発生から着水まで僅か3分・救助完了まででも30分弱で誰もが顛末を知ってるという難儀なネタなのに、事故そのものは淡々と描きつつ緊迫感ある映画にしてしまうイーストウッド監督の手腕に感服。疑惑の機長として糾弾される法廷劇をクライマックスに置く構成が見事だった。ただ、事故調査委がこんな低レベルなわけないとは思う。

観た映画(2016年4〜6月公開)

『ルーム』
 着眼点が面白くキャスティングも完璧。実際オスカーでは主演女優賞を獲ったわけだけど、それなら子役の方も受賞させるべきだと思った。監禁部屋が世界の全てな前半と、外界を知り惑い適応していく後半の少年を実に自然に演じて、この映画のコンセプトを成立させている。子供感覚のサイズ感を再現するカメラワークも見事。


『ボーダーライン』
 えぐい死体がわんさかな麻薬カルテルに挑む女捜査官物を想定してたが全然違って戦争物に近かった。緊迫感が半端ない。ただ、主人公が蚊帳の外のまま任務が進む構成には戸惑った。国境線のメキシコ側は本当に首無し全裸死体とか吊った無法地帯なんだろか?


『スポットライト 世紀のスクープ』
 カトリック教会による少年性的虐待事件の隠蔽が題材だが、信仰に疎い日本人としてはスキャンダルのインパクトが本質的にちょっと解らない。けど、極力バイオレンスやサスペンスな描写を抑え、淡々と取材と会議が繰り返される地味な話で退屈させないのは偉い。


レヴェナント:蘇えりし者
 とにかく超広角レンズで撮ったマジックアワーの大自然映像が凄い。凍土を匍匐前進しノースタントで水落ち崖落ち、生肉囓りや動物解体まで体を張ったレオ様も偉い。特に熊にボコボコにされるシーンは圧倒される。でも、驚異的すぎる回復力は実際にあった話が元ネタなだけに微妙。結末も感動的とは言い難い。


アイアムアヒーロー
 日本の予算規模で、ここまでスケール感のあるパニックホラーが撮れるんだと感心しきり。話自体は非常にフォーマットに則ったものなんだけど随所で日本化されてて新鮮だし、感染者の造形も珍しいぐらいに怖い。よくR-15で済んだと思う人体破壊描写もたっぷり。搭乗者瀕死レベルのクラッシュは余計だが、日本じゃ規制で難しい公道カーアクションまである。特に大泉洋覚悟完了から猟銃無双のシークエンスは圧巻。


ズートピア
 「差別と偏見」がテーマの作品は数あれど、簡単にはいかない事をここまで前面に押し出すのは珍しい。被害者にも加害者にも成り得たり善意が不寛容を生んだり、とかく単純化できないナーバスな問題をキッズに楽しく教えてくれるディズニー恐るべし。しかも『ブレイキング・バッド』な羊とか、大人専用ネタも挟みながら。普通にバディ刑事モノとしても小粋だし、伏線がきっちり回収される様も気持ちいい。続編を期待。


テラフォーマーズ
 無理な企画も断らないと定評の三池崇史監督がアクション期待薄なキャストと予算なりのCGを駆使したビジネスライクな作品。原作でもあんなキャラなのか小栗旬が頑張り過ぎてるのか超気になる。だが悪ノリはその程度で、それなりに纏まってて逆に面白くない。


ちはやふる -下の句-』
 面白いが前編からはやや落ちの出来栄え。新キャラの松岡茉優はちゃんと孤高な設定を体現してるから、これは脚本の問題。過去の因縁も無く色恋沙汰にも団体戦にも関係ないクイーンをラスボスにする流れに無理があり過ぎる。とは言えクライマックスは充分に盛り上がる。ここに伝統のデータや吹奏楽部問題を絡めて欲しかったけれども。


シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
 折角『アベンジャーズ2』の最後で整理したのに、また超人が増えてる。けど、それぞれの立場やキャラが明示されるのでアクションは見やすかった。お話は「米国単独か、国連主導か」みたいな対立なのだが、紛争解決の負の側面に正面から向き合い安易な和解に逃げずに上手く纏めてた。しかし、回を重ねるごとに色々ストレスを背負い込むアイアンマンが不憫過ぎる。


『64-ロクヨン-前編』
 演技上手い人わんさかだが群像劇じゃなくて佐藤浩市がほぼ出ずっぱりなのが意外だった。時効間近なロクヨン事件の過去と現在、県警キャリア組と刑事部の軋轢、広報室と記者クラブとの丁々発止、主人公の家庭の問題と、複雑な同時進行が興味を誘い退屈はしなかった。これが全部前フリだとは・・・。


殿、利息でござる!
 元ネタが住職の遺した伝記だから、本格時代劇で忠実に描くと極めて道徳的な美談になったと思うが、敢えてコメディ・タッチを用いたことが功を奏し、程良い人情話になっている。展開の妙も見事。話題の羽生結弦は意外に台詞が多かったが無難にこなし、颯爽とおいしい所を持って行った。コイツが財政難の元凶なのに。


世界から猫が消えたなら
 映画好きで猫好きとしては色々とダメージ大な設定でしんみりだが、そういった補正を抜けば法則性の無い妄想ファンタジーに過ぎない。全体に色々とフォローが足りず構成がイマイチ。特にアルゼンチンのシーンは邪魔。でも、濱田岳絡みのエピは好きだ。


『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』
 顔を出せなくとも肉体美と変態的動作で作品を成立させる鈴木亮平の頑張りには頭が下がる。けど、漫画と違い生々しくて生理的嫌悪感が勝るのが困る。今回はPG-12を外れてるが天狗の面とかギリギリ過ぎ。『スパイダーマン』ネタに詳しくない事もあり時々眠かったが、無駄に格好いいアクションとバカバカしい笑いも結構あった。


ヒメアノ〜ル
 年間ベスト等での高評価を受けて内容もキャストも全く知らずに観賞。濱田岳ムロツヨシのダメ人間コメディにゲラゲラ笑ってたら、遅めのタイトルが来て主演がV6の人と判り当惑。しかも、そこからトーンがガラッと変わって非常にバイオレントなサスペンスに。とにかく森田剛がヤバイ。笑いと併走しつつの凶悪描写でとことん嫌な気持ちに落としてくる監督のセンスも凄いと思って調べたら『さんかく』を撮った人で、これは納得。


デッドプール
 言葉は下品で戦闘は血みどろバイオレンス、マスクに妙な愛嬌があり、ちょいちょい観客に語りかけたりのおふざけも超楽しい。けど、『X-MEN』シリーズの知識に疎い&米国ポップカルチャーの細かいギャグが謎な為イマイチ乗り切れず。もっとハチャメチャなのかと思ったら意外に真面目なドラマだったし。


『サウスポー』
 親権絡み家族愛でどん底から這い上がる、いかにも米国なボクシング映画。前年『ナイトクローラー』でゲスなサイコ野郎を演じてたジェイク・ギレンホールが肉体改造で別人になってて見事。ドラマ的には「そこ、さらっと流しちゃうの?」なエピソードが多く小さくまとまった感あるが、王道サクセスはやっぱ燃える。


『シークレット・アイズ』
 豪華キャストのハリウッド・リメイク。元ネタの『瞳の奥の秘密』は未見。捜査側も隠蔽側も容疑者の行動も揃って強引過ぎる事にたびたび呆れつつも、事件自体は予想外の方向に収束し地味に面白かった。ただ、中途半端な恋愛要素が邪魔臭い。


『64-ロクヨン-後編』
 前編を盛り上げすぎた弊害が目立つ。主軸となる誘拐事件が稚拙すぎて前編要素を背負いきれない。特に、主人公を広報官に据えて本筋と全く絡まないマスコミとのゴタゴタに時間を割いた意図が不明。「犯人を昭和に戻す」と更に掛け金を上積みするが、見合うクライマックスもカタルシスも無かった。


『二ツ星の料理人』
 批評家の影に不安定なメンタルを露呈し独裁完璧主義で厨房を混沌化させるシェフが、やがて仲間を信じて平常心で望むという王道物なのだが、複雑な過去の因縁や新旧調理法問題を中途半端に盛り込み過ぎ。『七人の侍』を期待させて個々の見せ場が無いのも残念。


エクス・マキナ
 アンドロイド・エヴァのデザインとキャラが秀逸。これはカルト的に盛り上がるのも肯ける。話も近未来SFサスペンスで面白かった。なんか名言の引用やら意味ありげで哲学的な会話やらは村上春樹を思わせるし、目の保養も結構ある。ただ、山奥の別荘でIT社長が独りで製作って設定と、その社長の意表を突くダンスシーンが底抜けにバカっぽい。


10 クローバーフィールド・レーン
 ネタバレが過ぎる日本の宣伝は勿論、わざわざ『クローバーフィールド』の看板を持ってきた制作陣も間違ってると思う。何の情報も無しに監禁モノの密室サスペンスとして観た方が絶対に面白いよ、これは。『ミステリーゾーン』的なオチにアレルギー起こす観客が多いだろうとも。


帰ってきたヒトラー
 風刺コメディかと思ったら意外に社会派だった。日本の現状と被る点も多く興味深い。ドイツでヒトラーってもっとタブー視されてると思ってたけど、総統コスプレでドキュメンタリー的に撮るのも有りなら彼の主張にも一理あるみたいな内容も許容されてて驚く。無茶な移民受入や格差問題に喘ぐ国民の不満が背景にあるにしても過激な映画だ。


クリーピー 偽りの隣人』
 話自体は途方も無く粗だらけなんだが、ミスリードする気のない副題から察するに其処を丁寧にやる気は全くないんだろうな。誰も彼もがなんだか危うい人な演出が生み出す妙な緊張感と、それを超越して完全に笑わせに来てる香川照之の図抜けたサイコっぷりが全て。それでいて怖さ全開なんだから恐れ入る。


『日本で一番悪い奴ら』
 スコセッシ監督を思わせるコミカルでエロくてヤクザな実録警官汚職物。しかも古き良き東映チック。ノルマ達成のために銃を買い漁る警察の本末転倒ぶりには目眩を覚えるが、チンピラたちの清々しいバカっぷりと疾走感が心地よい。ただ、ピエール瀧の出番が意外に少なくて残念。そして脱げる女優さんがあと何人か欲しかった。

観た映画(2016年1〜3月公開)

ブリッジ・オブ・スパイ
 ソ連のスパイの助命と後の捕虜交換に尽力した弁護士のアメリカ歴史秘話。脚本はコーエン兄弟だがコメディ色は薄く、スピルバーグ監督の人権尊重な姿勢が強いサスペンス。流石の完成度に唸らされる。ハードボイルドな主人公もいいし、速成されるベルリンの壁とか、当時のソ連東ドイツの微妙な関係とか、色々と興味深かった。


『イット・フォローズ』
 不幸の手紙形式の呪いに物理攻撃で対抗ってのが斬新な全米大ヒットのホラー。姿を変え憑いてくる設定のおかげで緊張感は半端ないんだけども、噂ほど怖くは感じなかった。薄気味悪く、なにかの暗喩や象徴らしきものが多々あるが、結局なんだかよくわからない。


『白鯨との闘い』
 小説『白鯨』の元になった実話の映画化って事なのだが、予想ほど鯨とのバトルに時間を割かないというか、ぶっちゃけ一方的に蹂躙される展開で驚いた。けど白鯨描写はド迫力で劇場で観なかったことを後悔。たぶん実際より美談にしてるんだろうけど、対立から極限状況を経て友情を描く人間ドラマもちょっとビターなところが好き。


ザ・ウォーク
 今は亡きNYのツインタワーでゲリラ綱渡りという実話の映画化。3D映画としての意味が凄くある作品で、ロバート・ゼメキスのCG技術に惜しみない拍手を贈る。映像がスリリングなのは勿論なのだが、決行までのドラマ部分もテンポ良く、傲慢な主人公なのに不快感は薄目。劇伴がジャズなので『ルパン三世』気分で楽しんだ。最後の切なさも良い。


サウルの息子
 ホロコーストが題材だからキツイ映画だろうと覚悟して観たものの、想像以上に息苦しくて困った。物凄くテクニカルな撮影で観客の視線をコントロールし地獄の労役を疑似体験させるのが凄い。ただ、ユダヤ教の埋葬の意味合いを理解してない事もあり、主人公の傍迷惑な一連の行動が謎だった。


ブラック・スキャンダル
 この組織をモデルに『ディパーテッド』が作られてる事もあり、新鮮味の無い展開でイマイチ盛り上がらない。いつキレるかわからない禿げ親父を熱演したジョニー・デップには悪いけど。序盤の会話でさらっと流されるアルカトラズでのLSD実験の話の方が気になった。あと、裏社会の首領にしては質素に暮らしてた理由も知りたい。


『オデッセイ』
 専門知識だらけでしっかり理解するのは大変なのだが、ざっくり観ても話は面白い。練られた科学考証による地道な生存努力と、ダイナミックでパワフルな無理筋展開が平然と混在してても何故か許せてしまう。火星でひとりぼっちのサバイバルな話なのに70年代ディスコヒットでノリノリになる不思議な作品。惜しむらくは内容とシンクロしてるらしい歌詞に字幕がついてない。


『キャロル』
 中年マダムに一目惚れな若い娘の感性も理解不能だし、当時のアメリカにおける同性愛の禁忌の度合いも量りかねるが、とにかく画が格好良い。作り込まれた50年代風の映像に、あらゆる仕草が男前なケイト・ブランシェットが映える。ルーニー・マーラも五割増しで可愛い。二人の視線に釘付けだった。


スティーブ・ジョブズ
 ジョブズの栄光と挫折の繰り返しな人生については色々と既知なので、「ダニー・ボイル監督だから一応」程度の観賞だったのだが、全然想像と違う切り口で面白かった。彼の突き抜け過ぎた先見性と残念で失礼なお人柄を、Mac・NeXT・iMacの新製品発表会直前の口論だけで見事に伝える構成が斬新。ただ、終着点がもの凄く嘘っぽい。


『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』
 「現代版ドラマのキャストでヴィクトリア時代のホームズを」という外伝作と思いきや、がっつりシーズン3の続きだった。よってシリーズ入門者は先に観ちゃ駄目。ファンとしては楽しいお遊びが豊富だが、ミステリー自体にはモヤモヤ感が強い。


『ザ・ブリザード
 救命艇パートの臨場感はアトラクションとして楽しいし、真っ二つに折れたタンカーの壊れっぷりとクルー達の必死の対応も燃えるんだが、うざいヒロインの退屈な陸パートがかなりの部分を占めるのが・・・。羅針盤ロストも定員云々も奇蹟で済まされるのが腑に落ちないが、実話なんだから仕方ないと自分に言い聞かせる。


ヘイトフル・エイト
 安定のタランティーノ節な西部劇で陰惨かつ悪趣味だが面白い。今回は密室ミステリーって触れ込みなので、いつもの退屈で長い無駄話っぽい所も緊張を強いられ超疲れるのだが、最終的にはその部分の役者さんの細かい演技をもう一度確認したくなる映画だった。ミステリーって宣伝は嘘で推理は成り立たないけど。


マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』
 高齢キャストの再集結だけでも嬉しいし、それぞれのイケてる老後にハッピー気分の手堅い続編。けど、前作が綺麗に纏まってた故に蛇足感は否めない。今回加わるリチャード・ギアのお話が薄っぺらいのも気になる。煩わしさパワーアップなインドの若造だが、パワフルなダンスは一見の価値あり。


セーラー服と機関銃 -卒業-』
 往年の角川映画ファン的には薬師丸版の相米慎二監督を強く意識した作風や長谷川博己の怪演など楽しめる部分もある。謎演出や超展開含めて。けど、ただでさえ小柄な橋本環奈にサイズ感のおかしな服着せて引きで撮っちゃ、お子ちゃまにしか見えない。


『エヴェレスト 神々の山嶺
 阿部寛はじめ多くは実在の登山家がモチーフなので問題ないが、創作キャラっぽい岡田准一尾野真千子の造形が酷く行動原理がさっぱり。設定上は『エベレスト3D』より数段ハードな山行の筈なのに、さほど辛そうに見えないのは演出の差か予算の差か。


ちはやふる -上の句-』
 とにかく若手役者が粒ぞろい。キャラ立ちから体技に至るまで、しっかりとした演出が素晴らしい。脚本も百人一首とストーリーをシンクロさせたり、わかりやすく面白く競技かるたの世界を伝える。特にメインが野村周平の成長物語なのが驚き。原作は知らんが、集客でも役作りでも圧倒的に頑張ってる広瀬すずを敢えて中心に置かない構成は勇気が要ると思う。前編のみできっちり話が成り立つのも偉い。


僕だけがいない街
 出来の悪い『バタフライ・エフェクト』。歴史改変型のタイムリープ物は整合性が命なのに、終盤の展開は全く辻褄が合わない。犠牲者も殆ど減ってない。挙げ句に、最後の対決に母親も有村架純も蚊帳の外。途中までは面白く、子役の演技も素晴らしかったのに。

HappyNewYear2017

 『君の名は』の劇場鑑賞をサクッとスルーするような映画ファンの風上にも置けない私ですが、今年も映画を観ることを生きがいにゆるゆる暮らしていく所存であります。
 本年もよろしくお願いいたします。