観た映画(2016年1〜3月公開)

ブリッジ・オブ・スパイ
 ソ連のスパイの助命と後の捕虜交換に尽力した弁護士のアメリカ歴史秘話。脚本はコーエン兄弟だがコメディ色は薄く、スピルバーグ監督の人権尊重な姿勢が強いサスペンス。流石の完成度に唸らされる。ハードボイルドな主人公もいいし、速成されるベルリンの壁とか、当時のソ連東ドイツの微妙な関係とか、色々と興味深かった。


『イット・フォローズ』
 不幸の手紙形式の呪いに物理攻撃で対抗ってのが斬新な全米大ヒットのホラー。姿を変え憑いてくる設定のおかげで緊張感は半端ないんだけども、噂ほど怖くは感じなかった。薄気味悪く、なにかの暗喩や象徴らしきものが多々あるが、結局なんだかよくわからない。


『白鯨との闘い』
 小説『白鯨』の元になった実話の映画化って事なのだが、予想ほど鯨とのバトルに時間を割かないというか、ぶっちゃけ一方的に蹂躙される展開で驚いた。けど白鯨描写はド迫力で劇場で観なかったことを後悔。たぶん実際より美談にしてるんだろうけど、対立から極限状況を経て友情を描く人間ドラマもちょっとビターなところが好き。


ザ・ウォーク
 今は亡きNYのツインタワーでゲリラ綱渡りという実話の映画化。3D映画としての意味が凄くある作品で、ロバート・ゼメキスのCG技術に惜しみない拍手を贈る。映像がスリリングなのは勿論なのだが、決行までのドラマ部分もテンポ良く、傲慢な主人公なのに不快感は薄目。劇伴がジャズなので『ルパン三世』気分で楽しんだ。最後の切なさも良い。


サウルの息子
 ホロコーストが題材だからキツイ映画だろうと覚悟して観たものの、想像以上に息苦しくて困った。物凄くテクニカルな撮影で観客の視線をコントロールし地獄の労役を疑似体験させるのが凄い。ただ、ユダヤ教の埋葬の意味合いを理解してない事もあり、主人公の傍迷惑な一連の行動が謎だった。


ブラック・スキャンダル
 この組織をモデルに『ディパーテッド』が作られてる事もあり、新鮮味の無い展開でイマイチ盛り上がらない。いつキレるかわからない禿げ親父を熱演したジョニー・デップには悪いけど。序盤の会話でさらっと流されるアルカトラズでのLSD実験の話の方が気になった。あと、裏社会の首領にしては質素に暮らしてた理由も知りたい。


『オデッセイ』
 専門知識だらけでしっかり理解するのは大変なのだが、ざっくり観ても話は面白い。練られた科学考証による地道な生存努力と、ダイナミックでパワフルな無理筋展開が平然と混在してても何故か許せてしまう。火星でひとりぼっちのサバイバルな話なのに70年代ディスコヒットでノリノリになる不思議な作品。惜しむらくは内容とシンクロしてるらしい歌詞に字幕がついてない。


『キャロル』
 中年マダムに一目惚れな若い娘の感性も理解不能だし、当時のアメリカにおける同性愛の禁忌の度合いも量りかねるが、とにかく画が格好良い。作り込まれた50年代風の映像に、あらゆる仕草が男前なケイト・ブランシェットが映える。ルーニー・マーラも五割増しで可愛い。二人の視線に釘付けだった。


スティーブ・ジョブズ
 ジョブズの栄光と挫折の繰り返しな人生については色々と既知なので、「ダニー・ボイル監督だから一応」程度の観賞だったのだが、全然想像と違う切り口で面白かった。彼の突き抜け過ぎた先見性と残念で失礼なお人柄を、Mac・NeXT・iMacの新製品発表会直前の口論だけで見事に伝える構成が斬新。ただ、終着点がもの凄く嘘っぽい。


『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』
 「現代版ドラマのキャストでヴィクトリア時代のホームズを」という外伝作と思いきや、がっつりシーズン3の続きだった。よってシリーズ入門者は先に観ちゃ駄目。ファンとしては楽しいお遊びが豊富だが、ミステリー自体にはモヤモヤ感が強い。


『ザ・ブリザード
 救命艇パートの臨場感はアトラクションとして楽しいし、真っ二つに折れたタンカーの壊れっぷりとクルー達の必死の対応も燃えるんだが、うざいヒロインの退屈な陸パートがかなりの部分を占めるのが・・・。羅針盤ロストも定員云々も奇蹟で済まされるのが腑に落ちないが、実話なんだから仕方ないと自分に言い聞かせる。


ヘイトフル・エイト
 安定のタランティーノ節な西部劇で陰惨かつ悪趣味だが面白い。今回は密室ミステリーって触れ込みなので、いつもの退屈で長い無駄話っぽい所も緊張を強いられ超疲れるのだが、最終的にはその部分の役者さんの細かい演技をもう一度確認したくなる映画だった。ミステリーって宣伝は嘘で推理は成り立たないけど。


マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章』
 高齢キャストの再集結だけでも嬉しいし、それぞれのイケてる老後にハッピー気分の手堅い続編。けど、前作が綺麗に纏まってた故に蛇足感は否めない。今回加わるリチャード・ギアのお話が薄っぺらいのも気になる。煩わしさパワーアップなインドの若造だが、パワフルなダンスは一見の価値あり。


セーラー服と機関銃 -卒業-』
 往年の角川映画ファン的には薬師丸版の相米慎二監督を強く意識した作風や長谷川博己の怪演など楽しめる部分もある。謎演出や超展開含めて。けど、ただでさえ小柄な橋本環奈にサイズ感のおかしな服着せて引きで撮っちゃ、お子ちゃまにしか見えない。


『エヴェレスト 神々の山嶺
 阿部寛はじめ多くは実在の登山家がモチーフなので問題ないが、創作キャラっぽい岡田准一尾野真千子の造形が酷く行動原理がさっぱり。設定上は『エベレスト3D』より数段ハードな山行の筈なのに、さほど辛そうに見えないのは演出の差か予算の差か。


ちはやふる -上の句-』
 とにかく若手役者が粒ぞろい。キャラ立ちから体技に至るまで、しっかりとした演出が素晴らしい。脚本も百人一首とストーリーをシンクロさせたり、わかりやすく面白く競技かるたの世界を伝える。特にメインが野村周平の成長物語なのが驚き。原作は知らんが、集客でも役作りでも圧倒的に頑張ってる広瀬すずを敢えて中心に置かない構成は勇気が要ると思う。前編のみできっちり話が成り立つのも偉い。


僕だけがいない街
 出来の悪い『バタフライ・エフェクト』。歴史改変型のタイムリープ物は整合性が命なのに、終盤の展開は全く辻褄が合わない。犠牲者も殆ど減ってない。挙げ句に、最後の対決に母親も有村架純も蚊帳の外。途中までは面白く、子役の演技も素晴らしかったのに。