観た映画(2019年7~9月公開)

『Diner ダイナー』
 独特の色彩表現は苦手だが、平山夢明の凄惨な原作をR指定無しに撮るなら蜷川実花監督の作風は合うと期待した。実際、怖さが無いのが残念だが、奇抜なキャラ達のシュールな世界は良い雰囲気だった。でも終盤の酷いアクションと蛇足な恋愛要素で全て台無し。

『天気の子』
 『君の名は。』のメガヒットで一般ウケにシフトするかと思いきや、ピーターパン・シンドロームなアプローチで突っ走って、あの物議を醸すだろうオチ。新海誠監督はガチだと思った。明らかに意図的なご都合主義連発や拳銃関連の不自然さには笑うしかない。東京の街並みの再現力や雨描写も素晴らしい。

アルキメデスの大戦』
 戦艦大和の建造阻止に挑む数学の天才の話。結果は皆さんご存じな話を如何に盛り上げ決着させるのか興味津々。数学的アプローチとか表面をなぞってるだけで、無理難題の数々は殆ど主人公の天才性だけで克服する酷い流れなのに、菅田将暉柄本佑のバディ感が楽しく、何より二転三転な攻防からの決着にツイストが効いていた。

『メランコリック』
 低予算インディー映画ながら色々凄いと噂の巻き込まれ型サスペンス・コメディ。とにかく予想がつかないストーリーテリングに唸らされた。コーエン兄弟っぽいダークなユーモア&バイオレンスを日本化しホンワカと纏めた印象。全然見覚えのない役者さんばかりなのに嵌まりっぷりが見事で、特に「松本」役の多面性が良かった。

『ダンスウィズミー』
 催眠で急に歌い踊る着想がバカで面白いし、笑えるシーンは一杯あり、踊りまくる三吉彩花は本当に楽しかった。門外漢なやしろ優とchayの演技も意外にいける。でも、総じて勿体ない。脳内と現実のギャップの見せ方に難があるし、後半にゴージャスな妄想シーンが殆ど無いのもがっかり。終わり方は素敵だけど、貧乏が解消しないのでモヤモヤ。

ロケットマン
 エルトン・ジョンの伝記ミュージカル。同性愛者として苦難の道を歩みドラッグと酒に蝕ばまれ更正する迄が描かれるが、歌詞を書いてるのはエルトンじゃないのに歌詞に合わせて作劇されてるって事は、たぶん話は脚色だらけ。その割に盛り上がらないのは本人存命が足枷か。『ライオン・キング』や「ダイアナ妃」の話には至らないで終わるのも残念。

『火口のふたり』
 出演は基本的に柄本佑瀧内公美のみでシーンの半分は濡れ場ながら、「キネ旬ベスト」の1位&主演女優賞獲得の官能映画。エロさや美しさよりも艶笑話として際立ってて、モラルを放り出してダラダラと性に溺れるだけの男女が異様に滑稽だった。終盤のまさかな展開は表題の「火口」につながるからたぶん原作通りだと思うけど・・・なんなんだ?

『引っ越し大名!』
 幾度も国替を重ねた越前松平家をモチーフにしたコメディ時代劇。不自然なギャグをちょこちょこ挟むのが難だが、話の大筋は普通に面白い。ただ、取って付けたような謀略や半端なミュージカルや冗長なアクションに尺を使うより、もっと知恵と人情なプロジェクト系の盛り上がりに力点を置いて欲しかった。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 ディカプリオとブラピの関係が可笑しくも胸熱で、ニアミスしつつ二人とは別の日常を送るヒロインも超キュートだった。シャロン・テートの事件を忘れてた故に所々意味不明だったが最後まで愉快に観れた。タランティーノ映画は常に固有名詞検索必須であり、調べれば別の面白みを逃したと知る。でも、テレビに洋画や洋ドラが流れる毎日の70年代を体験した世代としては、懐かしく夢のような楽しい世界で、長尺は苦にならず。

『アス』
 現代アメリカ風刺色の強いスリラー。主役が全員黒人のためか米国での評価は妙に高いが、正直ピンとこないで眠かった。特に中盤以降に加速していく荒唐無稽ぶりには呆れるばかりで、特権に与れる者の裏にいる恵まれない人々の事を真面目に考える気も失せる。

『記憶にございません!』
 三谷幸喜監督にしては「脚本の妙」が少なめ。ウィットに富んで心暖まる手堅いコメディなので気軽に楽しめるが、小さく纏まった感は否めない。事情により何者かを演じるお得意の枠組みに加え、三谷ドラマ『総理と呼ばないで』と同じような構図なので新味にも乏しい。

アイネクライネナハトムジーク
 原作は未読だが 、おそらく伊坂幸太郎が得意とする登場人物が巧妙に繋がって収束する群像劇なのだろう。叙述トリックだったりのパズル的快楽部分が弱まってると推測され、全体に薄味な印象は否めない。伊坂ワールドのイメージを崩さず、いくつもの素敵な出会いがあり爽やかな余韻を残す恋愛ドラマに仕上がってはいるけれども。

『アド・アストラ』
 批評家好評も一般ウケしないってのは本格SFにありがちだが、コイツは数多のハードSF映画の要素を寄せ集めてみたものの纏める力量も科学知識も持ち合わせてないって代物。ドラマも在り来たりすぎてブラピ&宇宙人ジョーンズでもカバーできない。

『ホテル・ムンバイ』
 ムンバイ同時多発テロを題材にした超一級品のスリラー。とにかくテロ描写が地獄絵図で緊張感が半端なかった。正解か墓穴か判らない行動選択の連続で、意外な所であっさり退場するキャラだらけ。物凄く怖いがグイグイ引き込まれる。冷酷無比な殺戮者が貧乏で無知で組織に踊らされた殉教者達だって事も描かれ、理不尽な暴力に憤りつつも富める側としてはなんとも言えない気持ちに・・・。