観た映画(2019年10~12月公開)

蜜蜂と遠雷
 若手ピアノコンクールを題材にした青春群像。原作は直木賞本屋大賞の話題作だが未読。「これを文章で表現したの?」と逆に驚くぐらいに演奏シーンばっかりだった。素人には解らんレベルの競い合いをあの手この手の演出で伝えてて興味深い。共鳴するメイン4人の演技は素敵だったが、最終的に美味しい所は鹿賀丈史が全部持って行った。

『ジョーカー』
 ホアキン・フェニックスは素晴らしいし、凝った物語構造も見事だが、始終「いや、コイツはどう転んでも理解不能な悪のカリスマにはならんだろ?」という目線で観てたので乗りきれなかった。スコセッシ監督作のオマージュとしては面白かったけど。

『真実』
 カトリーヌ・ドヌーヴ×是枝監督の話題作だが、予想を遙かに超えて是枝テイスト強め。社会派じゃなくて、穏やかでコミカルな方の。舞台はフランスで西洋人キャストだけど、「この役は希林さんで、あれは橋爪さん、コイツはリリー・・・」って自然に置換された。劇的な展開は殆ど無いが、母娘の確執がネチネチせず子役がキュートなので和む事多し。

『楽園』
 実際の事件をモチーフにした吉田修一の短編2編を一本の物語に再構成したヒューマンドラマ。共同体意識が強く不寛容な田舎社会で追い詰められ壊れてしまう人々を観るのが辛かった。都会からネットまでムラ社会化が進む昨今、色々と考えさせられた。ただ、別個の作品を纏める役割を担う杉咲花のパートが少々難解で、巧い着地とは言いがたい。

ジェミニマン』
 映像技術の革新により、51歳VS20代ウィル・スミスの本人対決が実現。まあ、フルCGよりも3D+ハイフレームレートの没入感が本作の売りらしいけど、2Dで観たので其所はよくわからない。バイクチェイスとかアクションは面白い構図が多かったが、とにかく話が雑で退屈。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』
 演習の「生きた標的」にされ戦車1輌でナチスの包囲網から大脱出という、ロシア製娯楽戦車アクション。かなり荒唐無稽で雑な脚本だし無理矢理なロマンスにも苦笑だが、ド派手な戦車アクションと戦術ロジックな駆け引きは、殆ど実写版『ガールズ&パンツァー』で面白かった。逸らして弾く装甲や、被弾時の車内の衝撃とかの描写が新鮮。

IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
 少年少女が大人になっての完結編。ホラーとしては怖くないのは前作同様で、好評だったジュブナイル要素が抜けて無駄に長くてふわっとしたファンタシーに・・・。物語の進行よりホラー映画等のオマージュを拾う方に注力したので退屈はしなかったが。

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』
 付き添いの保護者を号泣の渦に叩き込んだと噂の子供向けアニメ。ほのぼのして何処までも優しい世界で、社会に疲れた大人に刺さるのも肯ける。音声はナレーションの男女のみって演出もマーベラス。「すみっコ」の細かい設定が自然に判るのも有難い。ファンシーな見た目とは裏腹にシュールなキャラが多くて可笑しかった。

『ひとよ』
 暴力夫を殺し刑期を終えた母と事件で人生を狂わされた子供達との、再会から始まる苦悩と丁々発止を綴るホームドラマ。演技巧者たちのヒリヒリするやりとりにグッと引き込まれる。特に田中裕子の圧倒的な説得力が素晴らしい。白石和彌監督なのでもっと殺伐バイオレントな内容になるのかと思いきや笑えるシーンも多く軽重のバランスが良かった。

ターミネーター:ニュー・フェイト』
 『T3』を無かったことにした続編。また同じ話が焼き直されているが、それなりに纏まって終わるので尻切れの前2作よりは好印象。女戦士グレースのしなやかで凛々しい姿だけで鑑賞した甲斐がある。還暦を超えたサラ・コナーも格好いい。ただ、もう少し脚本に予想を超える展開が欲しかった。

『決算!忠臣蔵
 討ち入りのお金の話を関西弁で描く異色コメディ。W主演な筈の岡村隆史の出番が妙に薄く、笑いを獲る役回りでもない謎脚本。金銭管理がテーマで勘定方が活躍しないまま淡々と浪費が嵩む様に、「どんだけキャストに銭使うてんねん!」との思いだけが募る。

ゾンビランド:ダブルタップ』
 ゾンビコメディ、十年ぶり、まさかの続編。その間にエマ・ストーンはオスカーを獲り、男二人にもノミネートがあり、子供だったアビゲイルちゃんはゴージャス・ボディに。くだらないギャグとゾンビ虐殺だらけの映画に、よくもこれだけのキャストが戻ってきたもんだ。前回でやり尽くした感は否めないが、明るく生き抜く終末世界は相変わらず楽しい。

『EXIT』(2019)
 フリー・クライミングを駆使して毒ガスから逃げ回る韓流サバイバル。ディザスター物の演出としては間違ってる気がするが、韓国ならではの妙に軽いノリのドタバタ連発で楽しかった。ボルダリング技術や今時ガジェットを使ったアイデアも新鮮。ただ、メイン二人の脱出劇を描くにしちゃ大きすぎる災害規模とか、設定が色々と大雑把なのが残念。

シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
 仏製実写版という地雷案件なので全く期待してなかったが、ちゃんと原作テイストで楽しかった。「もっこり」も「天誅」も自然な形で盛り込まれ、特に登場した瞬間に誰の役か判る再現度のキャストには拍手喝采。いかにもフレンチっぽい毒気が強くてアダルトでお下品なギャグの応酬は、うっかりキッズと観ちゃダメなレベルだけど。

『カツベン!』
 周防正行監督久々の新作は、無声映画時代の活動弁士を題材としたコメディ。同じ映像でも弁士の個性で話が変わるとか、活弁が日本独自の上映スタイルとか、色々とためになった。ただ、大時代な演出の緩いドタバタを、懐かしいととるか古臭いととるかで評価は割れそう。竹中直人×渡辺えりのいがみ合いが不発なのも残念。

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
 一言で済ますとグダグダ。三部作として歪過ぎるし、単純に一本の映画としてもつまらない。前作で蒔きに蒔いた種を全部無かったことにして強引に不時着させたにしちゃよく頑張ったとは思うけども。キャリー・フィッシャー急逝の影響も大きいだろうし。しかし、あんなにフォースを便利に使う必要は無いし、フィンとポーの扱いもあんまりだ。

『パラサイト 半地下の家族』
 韓国の社会状況に疎いので、家族全員が即戦力スキル持ちで要領も良く怠惰でもないのに貧乏暮らしという設定が腑に落ちないし、石の意味もわからないなどあるけれど、ブラックなユーモアたっぷりで二転三転のエンタメ作品としてとても面白かった。ポン・ジュノ監督らしい苦い終わり方も好みだ。