観た映画(2021年7~9月公開)

『トゥモロー・ウォー』Amazon独占
 人類滅亡の危機に現代人を未来に借り出すプロットは斬新だったが、完全に設定倒れで意味が無かった。作り手が時間SFの醍醐味を全然理解してないので、次々と肩すかしを食らうはめに。頭の悪い脚本を笑うには絶好の超B級作で、退屈はしない。

 

ゴジラvsコング』
 ハリウッド版シリーズ第4弾。子供に媚びて陳腐化した昭和ゴジラの轍を敢えて踏むリスペクトに苦笑。妙に察しの良い連中が馬鹿論理で織りなす出たとこ勝負なドラマはさておき、巨大怪獣が街を破壊し肉弾戦を繰り広げる醍醐味は存分に堪能できた。

 

『東京リベンジャーズ』
 未読だが漫画実写化にしては当たったらしいので観てみる。ティーンが大好きな正義とワルのヤンキー抗争ものだが、話は薄くタイムリープ設定も半端。女子ウケ良しの旬なイケメンが一杯だが暴力描写はエグめ。アクションは並。キャストがハマってるのか?よくわからない。

 

『プロミシング・ヤング・ウーマン』
 デートレイプなゲス野郎に鉄槌を下す痛快ヒロインの話かと思えば、社会のあり方に対する強いメッセージ性を持つ作品で、展開に捻りも効いてて面白かった。この題材でエロやヴァイオレンス描写を極力抑え、台詞でも多くを語らない手法が秀逸。内面が良識的な「いい人」達も容赦なくぶった斬ってくるので、とってもしんどいけれども。

 

『竜とそばかすの姫』
 最終的に現実世界での事態の収拾が全くついてないのを筆頭に、腑に落ちない部分が多すぎる。自己肯定万歳な思想も個人的に相容れないし正直、歌にもピンときてない。にも関わらず全然あくびは出なかった。『美女と野獣』をモチーフにそこかしこで炸裂する細田守監督の作家性。明らかに過積載で説明不足で不自然な設定だが、そこが見所。

 

『イン・ザ・ハイツ』
 トニー賞4冠のヒスパニック系移民たちの青春ミュージカル劇場版。家賃高騰で界隈がピンチだの人種差別だの不法移民だのお話に新鮮味はないし、移民の想いを本当の意味で理解するのは難しい。ラップが多く歌の情報量を字幕では処理しきれないのも難だ。でもラテン・ポップやサルサの大集団ダンスのお祭りムードは観ていて飽きない。

 

『ベイビーわるきゅーれ』
 アクション好き方面で評判の超低予算日本映画。凄腕の女子高生殺し屋コンビが卒業と共に「表の顔」を失い、社会人として普通のバイトに悪戦苦闘するシュールなハード・バイオレンス・コメディ。ルームシェアする二人のダラダラな日常がちょっと長く感じたが、ブラックな笑いは概ね良好で、体術を駆使した格闘の見事さに惚れ惚れする。


『サマーフィルムにのって』
 時代劇製作に明け暮れる女子高生の恋と友情と出会いと別れの青春映画。映画愛やSF要素にツッコミ所は多く破壊力満載のラストにも賛否分かれそうだが、とにかく瑞々しく甘酸っぱい点では文句なしだった。大河の二代目鎌倉殿とまごころパンダの先輩さんぐらいしか知った顔がいないが、全員キャラ立ちが素晴らしい。

 

『フリー・ガイ』
 架空キャラが自我に目覚める的な話だが、主人公は犯罪や暴力を楽しむオープン・ワールドのゲーム内で酷い目に遭う役割のモブキャラ。海外ドラマ『ウエストワールド』に似た設定だが、こちらは底抜けに明るくコミカル。ゲーム関連の小ネタは全然分からないが笑えた。現実世界との絡みもよく練られ、倫理的に正しい方向へ導かれていくのが爽快。

 

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
 ハーレイ・クインという珠玉のキャラを除き全部ゴミだった第一作から監督を変え、邪悪で暴力的でブラックな笑いが激辛大盛りに。馬鹿馬鹿しさに溢れる魅力的な悪人達、グロいけど緻密に練られたアクション演出、ふざけてるが筋の通った痛快ストーリーと、使い捨てな犯罪者特殊部隊による決死のミッションという設定にふさわしい内容に建て直されてて快哉を叫ぶ。DCコミックスに無知でも、前作の話を全く思い出せなくても問題ない作りなのもありがたい。

 

『ドライブ・マイ・カー』
 村上春樹の名前を借りた別の何か。シンプルな短編に色々くっつけたり崩したりしての再構築に感心するやら呆れるやら。原作でちらっと言及されたに過ぎない『ヴァーニャ伯父』の舞台稽古シーンで過半を占める3時間の長尺。独特の無感情な演出や不自然な設定変更も目立ちコレジャナイ感は強いが、意外に退屈はしなかった。二度は観ないが。

 

孤狼の血 LEVEL2』
 前作を強力に牽引した役所広司が抜け心配な続編。しかし、鈴木亮平の兇悪ぶりが見事に穴を埋める。東映ヤクザ映画の流れをくむ脇役たちの群像劇は健在だが、ジャンルはシリアルキラーものに大変身していた。ストーリー自体は終盤がイマイチで面白味に欠けるが、とにかく殺伐とした暴力描写が二重丸。

 

『鳩の撃退法』
 主人公が書いた小説と現実が入り混じった巻き込まれ型サスペンス。劇中の土屋太鳳と同じく続きに興味をそそられたが、終わってみると豪華キャスト無駄遣いで物足りない。事実と比定される出来事は枝葉ばかりで、根幹となる失踪家族の事情や偽札の動きが真相に近いという保証は全くないため、オチがめちゃめちゃ弱い。悪いのは原作か、脚本か。

 

『オールド』
 時間の流れが異様に速いビーチに閉じ込められて・・・っていうアイデア一発で贈るM・ナイト・シャマラン監督作品。いつも通り話のネタとしては面白いが、ツッコミどころが多すぎる割に数多のハプニングはあまり盛り上がらず。でも、こんな話に収拾を付けて見せたのは流石だと思った。


『アナザーラウンド』
 高校教師の中年4人組が「ほろ酔いで仕事効率アップ」という危うい理論を実践するオスカー受賞のデンマーク映画。仕事も家庭も行き詰まり、ちょっと酒の力を借りるつもりが、やがて一線を超えて・・・ってな話だが、バイキングの国の飲酒感覚が別物すぎて初手から既に危険水域にしか見えず、着地点も理解しがたいものだったが退屈はしなかった。

 

『マスカレード・ナイト』
 同じ土俵での再タッグなので縮小再生産感は否めないが、怪しい客たちに翻弄されながら楽しむエンタメとしては手堅い二作目。テンポが良く最後まで飽きさせない造りは流石。けど、終盤で犯人が語る真相が謎解きものとしては無理矢理過ぎるので印象は悪い。あと、個人的にはホテルのお仕事要素が薄まったのが残念。

 

『空白』
 万引きを疑われ逃走中に事故死した少女を巡り、闇雲に冤罪やいじめを主張する横暴な父親と事故に関わり負い目を背負う店長と運転手、無責任に煽るメディアと巻き込まれる従業員や家族。善悪併せ持つ人間をシニカルに描く事に定評の吉田恵輔監督だけに見応えあった。哀しくていたたまれない話だが、最後に光みたいな意表を突く伏線回収が巧い。